天狗伝説大山カラス天狗伝説
今もなお語り継がれている多数の伝説の中から、
今回はD-Clubが選んだ3話をご紹介しましょう。
●大山の天狗 ●天狗の団扇と遠めがね ●鉄砲撃ちと天狗 



大山の天狗
むかし、大山のふもとの村にきこりがおった。ある日、山に入って木を切っていたら、木のそばに天狗が出てきて、きこりの仕事をじっと見ていた。 きこりは「これが大山の天狗か。話には聞いたが見るのは初めてだ。何とか生け捕りできんもんだらあか」と考えながら何くわぬ顔で仕事をしていると、天狗は「お前は今、わしを生け捕りしよう、と思うとるだろう」と心の中を見透かすように言った。 木こりがいろいろ心の中で思うことを天狗がすぐに当ててしまうので、きこりは驚き、天狗には人間の心の動きがみな解ってしまうことを知って、それから後は無心に木を切っていた。天狗も面白そうに仕事を見ていたが、きこりが切った木っぱが飛び散って、思いがけず天狗の自慢の鼻に当たった。今度は天狗が仰天して、「いやぁ、人間は心で考えんことをしてみせるけんきょとゃ」と言って山の中へ逃げ帰ったという。
挿し絵

挿し絵天狗の団扇と遠めがね
天狗というと空を飛び、人のこころを見透かす力があって怖い者だと言われているが、中にはなんとも間抜けな天狗もいたそうな。そんな天狗のお話し。むかし、大山のふもとに性の辛い男の子がいたそうな。その子がある日、竹の杖を突いて大山に登ってみた。ところがそこには口の尖ったきょとい天狗がきていて、なにやら団扇をあおいで宙に浮いたり降りたりして遊んでいた。男の子は「へえ、これが天狗ちゅうもんか」と初めはこわごわとこっそりみていたが、見ているうちに天狗の持っている空の飛べる団扇が欲しゅうてたまらんようになった。なんとか天狗をだまくらかいてあの団扇を盗っちゃらかい、と思って、杖にしていた竹の棒の片方からのぞくようにして遠くを見ながら、「やあ大阪が見える、大きな城だなぁ」「おおこっちは京都か、五重塔が見える」とさもさも面白そうに大声を出して見ていた。天狗は何やらキャアキャア言いながら見ている子供に気が付いて寄ってきて「おまえ、何見とうだ? 」「わしか、わしはこの望遠鏡で大阪や京都をここから見とうだ。やあこっちは東京だ。あれが浅草か、にぎやかだなぁ。」天狗はその望遠鏡とやらが欲しょうなった。 子供に譲ってくれと頼むと、子供は「嫌だぁ、やらん」と駄々をこねていたが、とうとう天狗が「それならこの団扇とかえっこしよう」といったので、子供はしぶしぶと勿体をつけて竹の棒と団扇をかえっこした。かえっこしたとたん、子供はさっと団扇を使って空を飛んで逃げてしまった。天狗は大喜びして望遠鏡という竹の棒を目にあて「さあ大阪」「やれ京都」と見るが何もみえない。そこで、やっと天狗は子供にしてやられたことに気が付いた とさ。

鉄砲撃ちと天狗
むかし、大山のふもとに鉄砲撃ちの名人がおりました。ある、大雪の日、山に登って獲物を追っていたら、急に突風が吹いて天狗が飛び出してきた。猟師が驚いていると、天狗は「おまえの鉄砲はドンパタリンか」と赤い顔をして聞いた。猟師は何のことか意味がわからなかったけれど、早く返事をせねば天狗は食いつきそうな格好をしているので、ままよ、「わしの鉄砲はドンパタリンだ」と言った。後でよく考えてみると、獲物を「ドン」と撃てば「パタリン」と倒れるのか「パタリン」と獲物が逃げてから「ドン」と鉄砲を撃つのか、という意味のようだった。天狗は猟師の返事を聞くと、「それなら、このわしを狙って撃て」と言い捨てて風のように去った。猟師も狙いすまして撃ったが、手応えはなかった。しかし、大山が大雪の日には、雪の上に片足だけの足跡があるという。
挿し絵

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